ヒトリゴト歩き

DESIGNER / URANO TAKAHIRO

August 2008

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101




『その波のその先になにがあるの?』
小さな声で彼女は聞いた。








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僕らは旅をするように、海原を小さなボートで彷徨うようにたゆたう。

外では大きなヒカリの雨が雷鳴とともにさんざめく。

どこへもいけない気持ちが唯一の彼の支えでもあり、窓から見える木に
見えるただ最後のひとひらの葉のようなものかもしれない。
後ろ足が片方行方知れずとなった小さな犬が懸命な足どりを辿りながら
道を散歩している。後ろからは小さくなった老婆。その中にきらめきを
憶える。

雨は数を増やし、屋根はけたたましい水辺のような音をあげる。
ずぶ濡れになったまま、男は立ち尽くす。バイクはガレージに預けたままだ。
ファスナーから取り出した煙草は随分と水を含み火はつかない。
雨は一向に止む気配を見せない。
小さな声で言葉を生み出す。
「ここはどこだろう」

雲は彼方へ向かっていった。
また、架の土地で雨を降らし続けるのか?

ヒカリがまた生まれる。

この世界で。

少しでも。

小さくても。

雨は大地を濡らし、そこに命を宿す。花が華を生み、火が灯火を呼びように。
灯火には輪が出来る、人が集まり始め唄が聴こえるようになる。凛として、凛として。
どこかで誰かがギターを弾いている。正しくはつま弾くような、消えそうな音。
リズムではなく震えのような嘆きの音。
夢はだれにも侵せない大切な時間。

ガレージはそこに集まる男達になにを分け与える?
それはアンプのような力を持てるのか?
あらゆる文化やカルチャーが叫びをあげて、それは大きなうねりとなるのか?
あらゆる力や魂やマインドや悲しみや愁いや暴力や知性の欠片やなくした片方の影や
夢や鍵、忘れることの出来ない遥か彼方に置いてきた手紙のこと。
全ては増幅を重ね、新たな時代を生み、新たな華をそこに咲かせるのか、出来るのか。

左の腕は痺れをきらしている。

あの輝きを取り戻したくて。

この旅が終わらないように。

すべての言葉が嘘にならないように。

かがり火に集まる少年達。



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