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ある小さな湖のほとりで幻想的な風景に出逢い、それらは声もたてずに
こちら側を飲み込む気配を持っている。ゆっくりと無言のままで音も立
てずに。次の日にほとりに出向くとそれらは跡形もなく消えていた。
彼は声を出さずに涙を流した。消え去った風景が二度と戻る事がないこ
と知ってしまったから。それを明確に心の片隅に置いたまま彼は生きて
いかなければいけないことを知ったのだ。どこにもいかない気持ちは宙
を彷徨い続けて、雲の上を歩き始める。果てのない小さな出来事。
夜になると本に向かいながら、逝く当てを探す。



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